DXの推進は、企業競争力を強化するだけではなく、業務効率化にもつながります。もちろん、単なるデジタル化や業務プロセスの整理などでも業務効率化は見込めますが、DXによる業務効率化には、より継続的で大きな効果が期待できます。
ここでは、日本企業のDXの現状を確認したのち、DX推進で実現する業務効率化とそのメリットについて説明します。
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DXの現状と必要性
DXを推進することは、業務効率化を推進することでもあります。それはどういうことでしょうか。
DXとは
経済産業省が公表している「デジタルガバナンス・コード2.0」において、DX(デジタルトランスフォーメーション)を以下のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
引用元:デジタルガバナンス・コード2.0|経済産業省
単にひとつの業務プロセスをデジタル化することではなく、企業活動全体にデジタル技術を活用して、企業内部の環境やビジネスモデルを変革し、そこから新たな価値を創造するようなダイナミックな取り組みがDXといえそうです。
DXについて詳しくは「【徹底解説】DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?必要性から成功事例まで」もご参照ください。
日本企業のDXへの取り組み
日本企業のDXへの取り組みを、経済産業省がまとめた「DXレポート2 中間とりまとめ(概要)」で確認していきましょう。
レポートでは、2020年10月時点で、DX推進指標に対する自己診断を行った企業の95%が、DXにまったく取り組んでいないか、ようやく取り組み始めた段階であると報告されています。
また、
・先行してDXに取り組んでいる企業とそうでない企業では、進捗状況に大きな差がある
・そもそも診断結果を提出すらしていない企業が多数ある
とも記されています。
一方で、自社のデジタル化に関する取り組み状況についての調査では、自社のデジタル化が、「他社と比べて、かなり進んでいる」「他社と比べて、ある程度、進んでいる」と評価する企業が40%程度(2019年度)います。
また同調査結果より、ビジネスモデルの変革の必要性について、多くの企業の認識が、「現在のビジネスモデルの継続を前提」としており、経営に対するデータの活用状況についても、多くの企業が「部分的なデータ分析にとどまっている」ことが指摘されています。
これらのデータから、日本企業におけるDXへの取り組みは企業により差があり、全体として「進んでいる」とはいえない段階であることがわかります。
日本企業の現状については「日本におけるDXを阻む課題とは?実現に向けたステップも解説」もご参照ください。
DXの必要性
日本企業にはなぜDXが必要なのでしょうか。大きな理由は次の3つです。
- 「2025年の崖」の克服
DXを推進せずに現状を放置すると、2025年には「2025年の崖」と呼ばれる危機に陥ると予測されています。
日本企業に多くみられるレガシーシステムの存在と、IT人材の不足はビジネス戦略上の足かせとなり、市場競争で後れをとりつつあります。この状況を放置すれば、日本企業の競争力が国際的に低下し、2025年以降は年間最大12兆円の経済損失が発生すると危惧されているのです。
2025年の崖を克服するには、DXの推進が必須といわれています。2025年の崖について詳しくは、「2025年の崖とは?意味と企業への影響、克服するためにすべきことを紹介」をご覧ください。
2025年の崖や、レガシーシステムについては以下をご覧ください。
・2025年の崖とは?意味と企業への影響、克服するためにすべきことを紹介
・レガシーシステムを使い続けることの弊害とは?脱却するための対策も紹介
- 業務効率化を進め、企業の競争力を維持するため
現在の日本企業には、アナログ作業や合理化されていない業務プロセスが多く残っています。日本企業が市場で生き残っていくためには、まず業務効率化を進 めて、生産性を高めていかなければなりません。
そして、DX推進によって既存のプロセスを単純にデジタル化するのみならずプロ セスそのものを効率化し、顧客への新たな価値提供につなげていくことが重要です。この取り組みが、企業競争力の維持・向上につながっていきます。
- グローバルな競争力を高めるため
少子高齢化により国内市場が縮小していく可能性があるなか、日本企業が国際競争力を高めていくことの重要性が増しています。一方でコロナ禍を機に国際社会全体でデジタル技術の持つ新たな価値に多くの人が気づき、デジタル化が急速に進んでいます。今後はデジタル技術を活用した新たなビジネスが続々と生まれ、市場競争が一層激化していくことが予測できます。
日本企業がグローバルな市場で競争優位性を獲得するためには、DX推進はもはや必須と言えます。
DXはどのように業務効率化につながるのか
DXを推進する過程では、次のふたつの理由により、業務効率化が大きく進みます。ひとつはシステムの刷新による業務効率化、もうひとつは業務プロセスの見直しによる業務効率化です。
システムの刷新による業務効率化
DXを推進するなかで、レガシーシステムの刷新とブラックボックス化の改善が行われます。システムの刷新は短期的にはコストがかかりますが、次のような効果があり、長期的には企業の利益向上につながります。
- 処理速度の向上
新しいシステムを導入することで機能性が向上し、処理速度や社員の作業速度が上がります。これはそのまま業務効率化や生産性向上につながります。 - 高度なシステムによる付加価値の追加
新しいシステムは、レガシーシステムとは異なり、新しい技術にも対応します。また多くの場合、高度なリアルタイムでのデータ分析が可能です。機能が高度化することにより、顧客に新しい価値を提供することにつながります。 - コスト削減
新しいシステムを導入することで、レガシーシステムの保守運用にかかっていた費用や手間を削減できます。
業務プロセスの見直しによる業務効率化
業務をデジタル化したりシステムを刷新したりする前には、通常業務プロセスの見直しを行うことになります。見直しによって、業務プロセスの最適化や、企業の組織構造をより効率的に変化させることが可能です。
DX推進による業務効率化のメリット
DX推進によって企業活動全体がデジタル化され、業務効率化が進むと、次のようなメリットが得られます。
- 長時間労働を回避でき、創造性の高い業務へリソースを集中できる
ルーティンワークが自動化されるため、作業時間が短縮し、長時間労働を回避できます。作業時間の短縮によって余った時間を、より創造的なほかの業務に充てることが可能になり、そこから新しいビジネスが生まれる可能性もあります。 - 作業速度の向上やミスの削減
作業がデジタル化されて手作業が減ることで、作業速度が上がり、生産性向上につながります。また、ヒューマンエラーが減少します。 - データの共有が容易になりテレワーク環境が整う
業務に必要なデータを一元管理でき、共有が容易になります。データのデジタル化・システム化が進むことによって、テレワークの導入もスムーズになります。 - 働き方改革の実現につながる
業務プロセスの多くがデジタル化されることで、遠隔地から業務に参加することが可能になります。前出の長時間労働の回避やテレワーク環境の整備につながり、働き方改革の実現にもなります。 - 新しい技術への対応
システム刷新により、AIやBIなどの新しい技術を利用しやすくなります。これによって、より緻密で正確な経営分析を行うことができ、分析結果をもとに適切で迅速な意思決定が可能になります。
DXに必要な技術についての詳細は、「DXを支える技術とは?技術を生かしてDXを推進するために必要な人材も紹介」をご覧ください。
なお、DXの推進は大企業だけでなく、中小企業も含めた日本の企業全体に求められる取り組みです。「中小企業でDXを推進するには?現状や成功させるためのポイント」でDXの成功事例を紹介していますので、ぜひご覧ください。
DX推進は業務効率化にもつながり、多くの企業に必要なもの
紹介してきたように、DX推進により業務効率化を進めるメリットは多くあります。
ただし、DXの本来の目的は単なる業務効率化ではなく、企業活動全体にデジタル技術を活用し、企業全体を変革することです。DXを導入すれば、必然的に業務効率化は進みます。業務効率化の先に目を向け、企業内部の環境やビジネスモデル、さらには社会全体をも含めた大きな変革へとつなげていくことが、DXの目的です。
企業が競争力を高めて、厳しい市場競争に打ち勝っていくため、規模の大小を問わず、多くの日本企業にDX推進が求められます。DXは初期段階である程度のコストが必要であり、取り組みを躊躇(ちゅうちょ)する企業もあるかもしれません。しかし長期的に見れば、デジタル技術の活用により顧客への新たな価値提供が可能になり、より大きな企業の成長へとつながることが期待できます。 DX推進の必要性を理解して、一歩一歩進めていくことが重要です。
DXの推進に関しては、以下もご参照ください。